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理化学研究所、スーパーコンピュータによる大規模シミュレーションにより、細胞内分子間の情報伝達効率の上限を定義する基本理論をめぐる論争に決着
理化学研究所は2月18日、スーパーコンピュータによる大規模シミュレーションにより、細胞内分子間の情報伝達効率の上限を定義する基本理論をめぐる論争に終止符を打ったと発表した。
この論争は、細胞の分子間でどのように情報が受け渡されるのか?という疑問に対し、1977年に米ハーバード大学のハワード・バーグ教授が、細胞内の分子の間でどれだけの情報を受け渡せるかの上限を定義する「バーグ=パーセル限界」の理論を提案したことに端を発し、それ以来、バーグ=パーセル限界は「数理的には厳密な裏付けを持たない」と考えられてきた。2005年に米プリンストン大学のウイリアム・ビアレック教授は、現代的な統計物理学を駆使した精緻な理論を提唱したが、双方の理論が予測する結果に矛盾があることが問題となっていた。
共同研究グループは、世界最高レベルの性能を持つ計算手法「eGFRD」を用い、理研のスパコンRICC上で大規模なシミュレーション実験を行い、バーグ=パーセル限界の理論を直接的に検証した。eGFRDは、細胞内の分子1つ1つの運動までを再現した細胞シミュレーションを可能にするために開発された粒子反応拡散系の高性能なシミュレーション手法。これによって、受容体分子1つひとつの結合・乖離状態を考慮した「1分子粒度」のモデルであるビアレックらの理論ではなく、個々の分子の振る舞いを考慮しない直感的なモデルであるバーグ=パーセル限界の理論の正しさを支持する結果を得たという。
共同研究グループは、今回用いたシミュレーション手法のeGFRDよりさらに高度な手法の開発に取り組んでいる。これらの計算手法は理研生命システム研究センターが開発中の次世代細胞シミュレーター「E-Cell 4」上に搭載し、オープンソースソフトウェアとして世界に向けて公開する予定となっている。
(川原 龍人/びぎねっと)
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